傍聴記 神戸市精神保健福祉専門分科会(2023/8/31開催)

兵庫県精神医療人権センターは神出病院事件以降、神戸市精神保健福祉専門分科会を傍聴しています。この傍聴記は会員向けの会報誌『ひょうごまいんど』に掲載していますが、より多くの人に専門分科会の議論に内容を知っていただきたいと思い、ホームページに掲載することにしました。

神出病院事件 進まぬ退院支援

■法人が謝罪

 ―前理事長の責任は?―  2023年8月31日、2023年度第1回の神戸市精神保健福祉専門分科会が開催され、神出病院を経営する聖和錦秀会の種子田護理事長が出席。法人として初めて謝罪の意を表明した。 委員から、前理事長の責任や不当利得の返還について明確化するよう質問があったが、同席した聖和錦秀会・川口博久部長は「管理者としての責任」であり、「額までは言えないが返還を求める。ただし、医療法54条(剰余金の配当禁止)違反であるという認識はしていない」と述べた。

■ 死亡退院率は神戸市内トップ(2022年度)  

 同分科会資料によれば、神出病院の死亡退院率(退院者中の死亡者の割合)は、事件が発覚した2020年度/42%(89人)、2021年度/27%(49人)、2022年度/33%(69人)、2023年(4月から7月末)/18.5%であった。

 「2023年度に死亡退院率が減った原因は何か」との質問に対し、土居院長は「内科医を3名に増員したことと、他院とのコンサルテーションを積極的に行ったこと」が原因であり、さらに「2022年度はコロナで10名の方が亡くなったために死亡退院率が上昇した。病院としては患者さんをどう看取るかというとりくみもあり、数字が少なければよいという考えはない」との考えを示した。 ただし、2022年度の神出病院の死亡退院率は、神戸市内14精神病院中トップであった。 また、発達外来を新設した理由について問われた土居院長は「神出病院入院患者には他院でなかなか上手くいかない人が多く、それらの人々の背景に発達障害がある場合が多い」と述べた。

■ 被害者に対する謝罪と賠償の現状

 分科会では、被害者に対する謝罪・賠償の進捗について、神出病院・土居院長から報告が行われた。土居院長によれば、謝罪・賠償の対象は9名で、謝罪の申し入れに対する家族の応答は次のようなものであった。

・1人目…終わったことだ。連絡しないでくれ

・2人目…これからまた考えて連絡する

・3人目…話すことは何もない

・4人目…後見人に説明をした

・5人目…後見人今後話し合う予定

・6人目…連絡しないでほしい

・7人目…病院に来てもらい話した。賠償の話もしたが、継続している

・8人目…話したくない

・9人目…弁護士を入れて話をしている。

■退院支援の現状

 神出病院入院患者に対する意向調査は2021年11月から翌年4月にかけて行われたが、調査を実施した241名中、64歳未満/69人、65歳以上75歳未満/58人、75歳以上85歳未満/73人、85歳以上/41人で、退院希望者は111名であった。

 分科会資料によれば、退院希望者のうち、退院した者は33人。内訳は施設転所12人(救護施設、グループホーム、高齢者施設)、転院7人、死亡14人、退院後再入院8人という結果であった(今年8月1日時点)。

 

 神戸市は報告書で「長期入院になっているケースでは、家族関係等の症状以外の課題、退院先の確保や生活面のサポートの確保の難しさなど、課題が重複しており対応が非常に難しい」と述べ、「自宅退院を希望するも家族の意向と合わなかったり、福祉施設や介護施設等への退院調整も精神症状と合わせて身体疾患を合併している方も多く、調整に時間を要する」とした。

■課題

 今年6月の病棟訪問以降、わずかではあるが、神出病院入院患者から人権センターに手紙や電話相談が届くようになった。1通の手紙には「1日でも青空の下で暮らしたい」と書かれてあった。 人権センターは難聴で電話ができない高齢者に便箋の差し入れを行ってきたが、土居院長によりストップがかけられた。病状を理由に面会を断られ続けている患者もいる。わずかであれ、神出病院入院患者との接触が生まれたことで、かえって、病院と地域を隔てる壁はより高く、より痛切に感じられている。

 かつて、家族説明会で、退院促進について尋ねられた大澤次郎院長(当時)は「うちは社会的事情があって行くところがない人を預かっている。家族が困っているので預かっているが、それに何かご意見でも」と告げたという(東洋経済オンライン2021年4月15日)。

 「行くところがない人を預かっている」との大澤次郎元院長の言明は半ば事実である。裁判では患者Aさんがスーパー救急導入にあたって病床数を削減した病院から神出病院に転院した事実が指摘されており、県立病院から神出病院転院を勧められた方、病院や施設をたらい回しにされたあげく神出病院で亡くなった方の遺族らの証言もある。

 神出病院を生み出し、籔本雅巳前理事長とその一族に莫大な利益をもたらしてきたのは、私たちを含む社会が生み出している構造にほかならない。 課題を神出病院と神戸市が抱え込んでいる限り、今後も死亡退院のみが累積していく事態は避けられない。両者は、精神保健福祉法が定める地域援助事業者の紹介を遅滞なく行い、地域の力を集めて課題にとりくむことができるよう、早急な体制づくりを行わなければならない。 また、私たちを含む精神医療関係者は、神出病院入院患者らの退院支援に責任を負っている。神出病院における虐待を指弾する以上、入院患者らを「退院困難」として放置してはならない。神出病院からの退院支援に向けて、関係者らの力を結集することを訴えたい。

■神戸市精神保健福祉専門分科会の資料や過去の議事録は、こちら → 神戸市:神戸市精神保健福祉専門分科会 (kobe.lg.jp) 

滝山病院事件に関わる退院支援の取り組みについて、下記イベントを予定しています。みなさまのご参加をお待ちしております。