ふれあいグループ患者虐待暴行事件に対する声明 | 神出病院事件を教訓に

2023年1月16日

ふれあいグループ患者虐待暴行事件に対する声明

〒653-0004 神戸市長田区腕塚町9丁目6-6

兵庫県精神医療人権センター

代表 高橋 亮也

連絡先 ℡ 090-3624-8270

Mail decogahiroi@yahoo.co.jp

 

 2022年12月、ふれあいグループが経営する静岡県内の2つの精神病院で、入院患者に対する暴行虐待事件が相次いで発覚した。

 事件の報道に接し、私たちは強い憤りを禁じえない。被害にあわれた方々をはじめ、すべての入院患者らの一日も早い救済と尊厳回復を求め、加害行為を行った看護職員はもとより、事件の隠蔽をはかった病院および法人に抗議するとともに、事件を通報した関係者が不利益を被ることのないよう要請する。

 静岡県は、これまでの監査で暴行虐待を防止・発見できなかったことを重くとらえて、被害者救済と患者の人権擁護のため、全力をあげてその責務を果たすべきである。

 私たちも、また、静岡県内外の当事者・関係諸団体と連携し、事件解決のための努力を惜しまないことを表明する。

1、報道によって明らかにされた事実とふれあいグループ理事長の管理運営責任

 2022年9月8日に、看護師Aが70代男性患者の行動に腹を立て、机をひっくり返し、車椅子ごと患者を転倒させ、さらに倒れた患者を蹴った。同年9月15日および9月28日には、看護師Bが食べ物を床に置いた46歳男性の患者に対し、保護室内で殴る蹴るの暴行を加えた(ふれあい沼津ホスピタル事件)。

 また、2021年9月から22年3月にかけ、50~60代の准看護師や介護福祉士ら4人が患者の口に粘着テープを貼ったり、車いすを蹴ったりするなどの暴行虐待を行った(ふれあい南伊豆ホスピタル事件)。

 これらの行為について、看護師Aは「自分はやるべきことをやった」と述べ、Bは「指導が行き過ぎた」と述べたという。また、南伊豆の4名は「患者が暴れるなどしたため」「仕事の効率化のためだった」などと説明したと報じられている。また記者会見で南伊豆ホスピタルの望月院長は「一部の行為は看護や介護の中だった」とし「仕方のないところもあった」などと弁明し、4名の行為が虐待であるとの認識の有無についても「今は言えない」と述べたという。

 暴行虐待を行った職員全員が自らの行為を職務の延長として捉え、院長自身が仕方のない行為であり、虐待であるかどうかを言えないと述べていることからも、これらは「一部の不届き者の仕業」とは考えられず、ふれあいグループの職員指導に深刻な問題があることは明らかであり、理事長の管理運営責任が厳しく問われるべき事案であることは明らかだ。

2、事件発覚の経緯とふれあいグループによる隠蔽問題

 2022年12月15日頃、行政や警察に対し沼津ホスピタル事件に関する関係者からの通報があり、県は同月20日に立ち入り調査に入る旨を同病院に通知したが、立ち入り調査前日の同月19日に病院から県に対してはじめて暴行の報告が行われた。これより前、沼津ホスピタル院長はメディアの取材に対して「(県への)報告はしてないです。うちの病院は、院長が全責任者っていうわけではないんです。全部指示はグループの理事長に仰がなければいけないんです」と答えていた。

 その後、静岡県は県下の精神病院に対し虐待事案の有無について照会を行ったが、その中で、南伊豆ホスピタルでの暴行虐待事件が発覚した。同月28日に行われた記者会見で望月院長は「(県や患者家族に報告しなかったのは)私とグループの判断」とし、ふれあいグループ全体で不適切行為に関する認識の甘さがあったとの考えを示したという。

 以上のように両病院の院長の発言からは、ふれあいグループ大屋敷芙志枝理事長こそが暴行虐待事件を隠蔽し、その連鎖を温存してきた張本人であることは明らかであるが、当の理事長は記者会見にも出席せず、今なお自らの見解を明らかにしていない。

3、神出病院事件を教訓に第三者委員会の設置及び患者意向調査を

 沼津ホスピタルの看護師Bは患者に対する暴行回数を「10回程度」と述べており、また、関係者は、この病院では退職した2人の看護師以外が、患者に罵声を浴びせている姿も見たといい、さらに「長期にわたって暴行が行われていたことも聞いた」とも話している。「5年前、入院していた当時に同じ看護師に首根っこを掴まれてベッドに叩きつけられた。これが一番屈辱的だった」との証言もある。これらの証言から、暴行・虐待に関わってきた職員はA・Bに限らず、また、長期にわたり繰り返されてきた蓋然性が高い。

 また、南伊豆ホスピタルの望月院長は、21年9月以前にさかのぼっての調査は「現実性がない」として実施する予定はないという。理事長自らが隠蔽を指示してきたことと合わせて考えれば、グループに自浄作用は皆無であるというべきであり、患者の人権の救済・擁護を行うためにも、事件の全容を解明し再発防止をはかるためにも、第三者委員会の設置が急務である。

 2020年に発覚した神戸市西区の神出病院暴行虐待事件では、当初、神戸市による職員アンケート調査等が行われたが、「市の調査内容は院長に報告される」などといった風評が流れ、回収率は極めて低かった。また法人内危機管理委員会が設置されたが、機能せず、その後も暴行虐待事件が発生するなどして、2021年9月に神戸市が推薦した弁護士らからなる第三者委員会が設置された。刑事裁判に問われた事件は計6名による10件程度であったが、2022年5月に公表された第三者委員会調査報告書は、少なくとも84件の虐待行為、看護師ら27人の関与を認定し、籔本雅巳前理事長の過度な利益追求が「患者の人権を軽視する風土を形成した」と結論付けた。その後、神戸市は、全患者に対する意向調査を実施し、半数以上の方々から退院の意向を聴取し、意向の実現に向けて対策を講じているところである。

 強制入院制度や閉鎖病棟によって社会から隔絶された精神病院が虐待暴行の連鎖を断ち切るためには、利害関係を持たない第三者が事実と問題点を洗い出すほかはない。ふれあいグループ事件に関わるすべての関係者は神出病院事件を教訓にすべきである。

3、静岡県の責任

 精神病院を指導監督権限を有する者は県知事のみであり、その責任は極めて重大である。

 静岡県は2022年8月にふれあい南伊豆ホスピタルに対して実地調査を行ったが、21年9月から22年3月にかけて発生した虐待(精神保健福祉法上の違反行為)を発見することができなかった。静岡県には何故発見できなかったのかを究明し、実地調査の対象や方法を全面的に見直す必要がある。

 その上で、静岡県は厚労省通知「精神科病院に対する指導監督等の徹底について(1998.3.3)」にもとづいて、ふれあいグループに対し、徹底した実地調査を行い、改善命令はもとより、公開かつ精神障害者当事者を含む地方精神保健福祉審議会の開催、指定病院および院長をはじめとする精神保健指定医の取り消し、改善命令に違反した場合の医業停止処分、その他の指導監督権限を厳格に行使すると共に、全患者の意向調査にただちに着手し、ふれあいグループに対して第三者委員会の設置を強力に指示しなければならない。同時に、神出病院第三者委員会調査報告書が指摘した医療法54条違反(理事長による不正利得)の有無についても厳格な医療監視を行うべきである。

 患者に対する虐待暴行が繰り返されるような場所は、本来人間がいるべき場所ではない。にも関わらず、強制入院制度があるが故にそこに留まらざるをえない数多くの人間がいることが果たして許されるのか。静岡県知事に対し、県民の命と人権を守る職責を今こそ果たすよう、切に要望したい。

4、精神病院の抜本的な改革を

 精神病院における虐待暴行が絶え間なく続き、かつ隠蔽されてきた要因は、精神保健福祉法上の強制入院制度や身体拘束、精神科特例などにより一般的な病院から区別された精神病院の存在そのものによって精神障害者の人権が極度に抑圧されていることにある。

 言い換えれば、精神病院における暴行虐待はこの国の政策と法体系から絶え間なく生じている問題であり、国には最も重い責任がある。

 国・厚生労働省は、神出病院事件、ふれあいグループ事件、その他の精神病院における暴行・虐待事件に対し、その解決のために自ら調査・指導を行うべきである。さらに、2021年の日弁連大会決議や2022年の国連人権擁護委員会勧告が指示している通り、精神保健福祉法の撤廃に向けて、真摯な検討を開始することを強く要請する。

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